2021年3月31日水曜日

学生生活の振り返り

東京大学大学院 情報理工学系研究科 数理情報学専攻の博士課程を修了しました。自分は学部の4年間を東工大の理学部情報科学科で過ごし、その後に東大大学院に進み修士+博士の5年間を過ごしました。折角なので4+2+3年の学生生活を振り返りつつ、その過程で「もっとこれをすべきだった」や「これはしておいて良かった」と思う事などもまとめます。正直自分には特別なものはなく本当に多くのrejectをくらったりD3の1年間はコロナのせいで出張も行けず辛い思いを多くしてきたのですが、その一方で多くの論文を読んで勉強して研究し続けて理論計算機科学のトップ会議に何本か論文を通すことが出来たのは誇りに思っています。ただ、誰でもそうだとは思いますが、研究をしている最中は論文が通る保証はないわけで、その中で研究を続けていくことに不安を感じることも多々ありました。そんなごくごく普通の学生の吐露からなる記事ですが、興味があればぜひ読んでいってください。

1. D進の理由


自分はB4くらいからD進を考えていて、それ以外の道を考えたことがなかったので特に理由はありません。B4の最初に研究室所属をして初めて研究をした時にかなり楽しく研究できたことが大きかったと思います。学部の間に研究や勉強が楽しいと思えるのは非常に大事なポイントだと思います。今にして思えばD進に際してかなり視野が狭かった(就職に目を向けてインターンなどをしても良かった)気もしますが、逆に迷いなく研究に打ち込めたという面もあるのでどっちもどっちでしょうか。

2. 学生生活で良かったこと

  • とにかく勉強した。学生生活が終わると時間をとって勉強することが出来なくなるのではないかと漠然と思っていたので、将来後悔しないようにとにかくD1の1年間は研究はあまりせずとにかく勉強に打ち込みました。自分の場合は Arora & Barak の Computational Complexity や Frieze & Karonski の Introduction to Random Graphs を約1年くらいかけて読みました。特にランダムグラフの本は自分で手を動かしながら読んだのですが、そのおかげでランダムグラフに関する直感を自分で持つことができて今もたまにその直感が研究に役立つことがあるので、やってて良かったと思っています。
  • 色んな学会に参加した。ありきたりですが、全国の同年代の人たちと交流をもったり先生方と知り合いになれたのは本当に良かったと思っています。また色んな学会で発表をして自分を宣伝できれば、アカデミアの世界での就活で多少は有利に働くことになるんじゃないかと思います。
  • 共同研究をした。自分は博士の3年間はS先生とずっと研究をし、何本も論文を書きました。S先生は自分とは違うバックグラウンドを持つ方で、共同研究をしていく過程で自分一人では到達しえないアイデアを幾つも提案してくださり、結果としてより真理の深淵に近づけたと思います。確かに学会に参加すれば多くの方と交流する機会は得られますが、研究の技術的にディープな内容を討論することは出来ません。それを補いより研究を深めることが出来たというのは良かったと思います。

3. 辛かったこと

  • 「選ばれない」ことのショック。自分は幸運にも、受験などではこれまで「選ばれる」方だったのですが、そのために「選ばれない」経験をほとんどしてこなかったがためにDC1に不採択になった時は精神的ショックはかなり大きかったです。特に一時期は「周囲の知り合いが皆DC1を持っているのに自分だけ...」という部分に大きな負目を感じていました。自分の場合は、1ヶ月後くらいに「自分と他人を比較すべきではないから気にする必要はない。むしろ、これから凄まじい業績を出してDC1とった人たちを超えて当時の審査員を見返そう」と奮起してました。改めて見直すとちょっと引くくらいポジティブですが、なんにせよ失敗をひきずらない精神を持つのは重要だと思います。
  • 将来への不安。ありきたりで誰もが持つとは思います。自分の場合は「考えてもしょうがない。業績が出れば将来有利になるから今は研究に集中しよう」と考え、将来のことはほとんど考えないことにしました。

4. 後悔

  • 一つの究極的な目標をたててそれに邁進する研究をしたかった。自分は主に、個々の小問題を解決していくような研究をしてきました。それは学問における自分の研究の意義を薄くする要因になります。確かに問題を解くことも大事ですが、問題を解いたその後に何を見出すかもまた大事であり、この部分を蔑ろにしてしまったことへの後悔があります。自分が論文の中で新しく提案した部分はその分野においてどのように貢献するかを明白に意識して論文を書くべきでした。自分はこれが(ゼロではなかったにしても)まだまだ足りなかったためにD論でとても苦労しました。博士の3年間はこの力を養うのに最適な期間だと思うので、D進した方々はぜひ頑張ってください。また、将来のことを考えると業績をあげなければと焦るかもしれませんが、その時の流行のトピックにあやかって論文を書くよりも他の誰もやってないオリジナルの観点に基づいた研究を貫いた方が絶対強いと思います。
  • もっと海外に行きたかった。D1の1年間はとにかく勉強に邁進していたため、海外の学会などに参加しませんでした。D2になって国際学会に論文が通ったのですが、予期せぬアクシデント(千葉県を襲った巨大台風のせいで飛行機が飛ばず、代わりの飛行機が取れなかった)のためにこの時は海外に行けず、さらにD3では国際学会に3本論文が通ったのにCOVID19のために全てオンライン開催になってしまいました。そのため自分は修士の間に3回海外に行ったっきりで、Dの3年間は一度も海外に行ってません。今後もCOVID19の影響は続けば海外に行けないのも致し方ないですが、実際に海外のレベルの高い学会に参加してレベルの高い発表を聴いたりすると自分のモチベーションが上がったりするし良い機会になるのでやはり参加できるならばすべきだと思います。

5. 総括


ひたすら研究などに集中できたのは間違いなく周囲の環境のおかげであり、自分一人の力ではここまでやってこれないのは明白で、その環境を用意して下さった指導教員、研究室のメンバー、共同研究者、家族には感謝してもしきれません。

研究トピックを決めるのは本当に難しいと思いますが、これから進学していくみなさんには、単に問題を解くだけではなく、その分野における貢献を意識しながらトピックを策定していくことをぜひおすすめします(めちゃくちゃ難しいですが、、、)

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