2018年8月30日木曜日

ランダムグラフの直径の直感的な話

普段はそこそこ真面目な記事を頑張って書いていますが今回はしょうもない話をします. いろんな数学の定理を理解するためにはやはり直感的な理解というのも重要だと思っていて, 今回はランダムグラフの直径についての直感的な理解の助けになるような話を電車で思いついたのでそれを垂れ流そうと思っています. ランダムグラフについては昔の記事にさわりだけ書いてあるので興味のある方はぜひ.

グラフ$G$の直径が $D$ 以下であるということは, どの頂点ペアに対しても長さ$\leq D$のパスが存在するということになります.

今, 各辺が独立に確率$p$で結ばれたランダムグラフ $G(n,p)$ を考えます. このグラフが長さ $l$ のパスを何本持つかを考えてみましょう. 簡単のため $l\in\mathbb{N}$ は定数とします. 期待値的には, 長さ$l$のパスは$l+1$個の頂点と$l$本の辺を持つため, $n(n-1)\cdots (n-l)p^l\approx n(np)^l$だけ含まれています.

ということは長さ$\leq D$のパスは期待値的には全部で $n\sum_{l=1}^D (np)^l \approx n^{D+1}p^D$ だけ含まれています. 冷静に考えると, パスの本数といった「〜の数」というものは指示関数の和によって表すことができます. 今回の場合は$\sum_{P:path}1_{[P\subseteq G(n,p)]}$といった具合です. それぞれの指示関数は独立のいうわけではありませんが, パスが辺素なら独立なので, 「なんとなく独立っぽい感じ」の確率変数の和ということになります. たくさんの独立な確率変数の和は期待値の周りに集中する(c.f. Chernoff bound)ので, $G(n,p)$は長さ$\leq D$のパスを$n^{D+1}p^D$本くらい含んでいそうです. 実際この直感はそこそこ正しくて, Jansonの不等式やこの結果を用いるとChernoffに近い感じの集中性が示せます (ただしどれくらい集中性が強いのかはかなり難しい問題です).

さて, $G(n,p)$の直径が$\leq D$である確率を考えます. 先ほどの直感を信じて長さ$\leq D$のパスが $n^{D+1}p^D$本あるとしましょう. 各頂点ペアにこれらのパスをランダムに「配分」することを考えます. ランダムグラフなのでパスの本数に偏り(例えば頂点1,2間には長さ$D$のパスが114514本あって頂点3,4間には1本もない)みたいなものは起こりにくいはずです。そこで$\binom{n}{2}$個の空のバケツがあってそこに$n^{-1}(np)^D$個のボールを一個ずつランダムに投げ入れたときに, 全部のバケツに少なくとも一個のボールが入っている確率を考えます (このイメージは全ての頂点のペアに長さ$\leq D$のパスが少なくとも一本ある = 直径$\leq D$に対応します). するとクーポンコレクター問題を思い出してもらうと, $n^{D+1}p^D \gg \binom{n}{2}\log \binom{n}{2}\approx n^2\log n$ ならば直径$\leq D$になるような気がします.

まとめると, $n^{D-1}p^D\gg \log n$ならば$G(n,p)$の直径は$D$以下, $n^{D-1}p^D \ll \log n$ならば直径は$D+1$以上となる, ことがなんとなくわかります.


実はこの結果は理論的にも正しいです. また, 「$\gg$」と「$\ll$」の境目に関しては次の結果が知られています.

Thm [p.112, Intruduction to Random Graphsより]
定数$D,c$に対して, $p^Dn^{D-1}=\log (n^2/c)$ を満たすよう$p=p(n)$を定めると, 以下が成り立つ:

  • $\lim_{n\to\infty} \Pr(\mathrm{diam}(G(n,p))=D)=\exp(-c/2)$,
  • $\lim_{n\to\infty} \Pr(\mathrm{diam}(G(n,p))=D+1)=1-\exp(-c/2)$.



証明はこの記事で説明した話とは全く違いますが, それほど難しくはないです. 距離$D$のペアの個数についてPoisson approximation theoremを適用するために頑張って計算するというものです.

0 件のコメント:

コメントを投稿

Håstadのスイッチング補題

回路計算量の理論における重要な結果の一つである Håstadのスイッチング補題 を紹介します. 簡潔にいうとこの補題は, 99%の変数をランダムに固定することによってDNFの決定木が小さくなることを主張する結果です. 応用としてparity関数に対する$\mathrm{AC}^0...