*今回は確率変数は全て標本空間から実数への関数だとします.
条件付確率というのはP(A | B)で,
P(A | B) := P(A ∩ B) / P(B)
として定義されます.
これをもとにして条件付期待値 E(X | A) は
E(X | A) := Σx P(X=x | A)
などと定義され, これはよく慣れ親しんだものだと思います.
しかし測度論的な条件付期待値は違う定義をされていて, 慣れるには中々時間のかかるものだと思います.
例えば, 古典的な定義によると条件付期待値は E(X | A) などと書いたときは X は確率変数で A は事象のはずです. また E(X | A) はデータ型として見ると実数です.
しかしながら測度論的な定義では E(X | G) などと書き, この場合は X は確率変数, G はσ-集合体 となっていて, しかも E(X | G) 自体はG-可測な確率変数になっています.
Gは事象の集合であり, 古典的な定義と絡めて述べると, (誤解を恐れずに書くと)
ω∈A∈G に対し, E(X | G)(ω) = E(X | A) が成り立つので, 古典的な定義と齟齬は生じないこととなっています.
本記事では測度論的な条件付期待値の定義を述べるとともに, 単純な例を紹介したいと思います.
定義
確率空間 (Ω, F, P) 及び 事象A ∈ F と 確率変数 X に対し,E[X ; A] := E[X・1_A]
とします. つまり事象A における測度 P での X のルベーグ積分です.
今, G ⊆ F を F の部分σ-集合体とします.
G が与えられたときの X の条件付期待値 E[X | G] とは, 以下の条件を満たす G-可測 な確率変数です.
- 全てのA ∈ G に対し, E[X ; A] = E[Y ; A]
* ここでいう一意とは, P のG への制限を P|G と書いたときに, (確率測度としてのP|G)測度0の点を除いた部分で考えています. 即ち, P|G(X=Y) = 1 となるような二つの確率変数 X と Y は同一視しています.
* PのGへの制限 P|G とは, 全てのA∈G に対して, P|G(A) = P(A) を満たす確率測度 P|G : Ω→G のことです.
可測であるということ
最も重要な部分は E[X | G] が G-可測であるという点です.確率変数 X が G-可測であるとは, 全ての B ∈ B(R) に対し, 逆像 X^{-1}(B) ∈ G であることを言います. ここでB(R) は実数上のボレル集合体です.
直感的な説明ですが, G ⊆ F であるとき, G-可測ならばF -可測である, が成り立ちます.
従って, G-可測であるという条件は F -可測であるという条件よりも強いことを要請しているわけです.
例えば, 確率変数 X が G= {φ, Ω } に対し G-可測 であったならば, 集合X(Ω) は一点集合, 即ちX=定数 でなければなりません. なぜならば X(Ω) ⊇ { a, b } とすると, X^{-1}({a}), X^{-1}({b}) がそれぞれ背反であり, 非空であるため G-可測であることに反するからです.
また, 確率変数 X が G-可測であったならば, E[X | G] = X となります. なぜならば, E[X | G] = X とおくと期待値の条件を明らかに満たすからです. (ラドン-ニコディムの定理より, 期待値の条件を満たす確率変数Zを見つければ測度0の点を除いてZ=E[X | G] となります).
例
- Ω = [0,1]
- F = B([0,1])
- P : ルベーグ測度
を分布関数として持つようなものとします.
- G ={φ, Ω } の場合:
E[ X | G] は G-可測なので, 定数である. 期待値に関する条件より,
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